食物繊維 (しょくもつせんい)とは、人の消化酵素 によって消化 されない、食物 に含まれている難消化性成分の総称である。その多くは植物 性、藻類 性、菌類 性食物の細胞壁 を構成する成分で、化学的には多糖類 であることが多い。
従来は、消化されず役に立たないものとされてきた。後に有用性がわかってきたため、日本人の食事摂取基準では栄養素 の1つとされている[1] 。
ヒト の消化管 は自力ではデンプン やグリコーゲン 以外の多くの多糖類を消化できないが、大腸 内の腸内細菌 が嫌気発酵 することによって、一部が酪酸 やプロピオン酸 のような短鎖脂肪酸 に変換されてエネルギー源として吸収される。大腸の機能は食物繊維の存在を前提としたものであり、これの不足は大腸の機能不全につながることになる。
1918年 、医師であるジョン・ハーヴェイ・ケロッグ は『自家中毒』[2] という著書を出版し、腸内で細菌が未消化タンパク質から作る毒が健康を害するという自家中毒説をもとに、未消化の肉には細菌が繁殖しやすいが、食物繊維は腸を刺激して活発にさせるので毒が作られにくいという理由で菜食 をすすめた[3] 。
しかし、一方で栄養学では「食べ物のカス」ともされ、長年役に立たないものと認識されていた。たとえば、栄養学の創設者である佐伯矩 は、玄米 は栄養が多いが未消化物が多いので消化吸収の効率が悪いなどとして、ある程度精白した米である七分搗き米をすすめていた[4] 。
1960年代の南アフリカのジョージ・オットル(George Oettle)が、食物繊維と大腸がんの関連の研究をしていた。1967年に、インドのマルホトラは食物繊維の摂取が多い場合、がんのリスクが減るという報告をしている[5] 。
1970年前後、バーキット[6] はオットルの研究を発展させランセット などで研究報告[7] [8] を行い、食物繊維が少ないと腸内の疾患のリスクが上がるだろうという説が広く知られるようになっていった。1975年にバーキットはトロウェル (Hugh Trowell)と共著で『精製炭水化物と病気-食物繊維の影響』[9] を出版し、精白していない穀物である全粒穀物 の食物繊維が有益であると述べ、このことは科学的研究によって確認されていった[10] 。
日本では2000年の「第6次改定日本人の栄養所要量[11] 」から栄養素の1つとして摂取量に言及されるようになった。
大きく水溶性食物繊維 (SDF : soluble dietary fiber)と不溶性食物繊維 (IDF : insoluble dietary fiber)に分けられる。
水溶性食物繊維
不溶性食物繊維
熟した果物などに含まれている水溶性食物繊維は、食後の血糖値 の急激な上昇を防いだり、コレステロール の吸収を抑制したりする要出典 。
野菜や穀類、豆類等に含まれている不溶性食物繊維は、大腸の働きを促す。また、がんの予防効果を期待する意見もある要出典 。
逆に、消化管内の必須栄養素であるカルシウム と結合し腸管からの吸収を阻害する働きもある[12] 。
日本では、特定保健用食品 (トクホ)として科学的根拠がある食品の機能の表示が認可されている。認可された食物繊維の多い食品には、排便回数や排便量が増加し、軟便として改善されたという研究結果が多い[13] 。
2003年、世界保健機関 (WHO)と国連食糧農業機関 (FAO)による「食事、栄養と生活習慣病の予防[14] 」(Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases ) では、肥満、2型糖尿病、心臓病のリスクを下げると報告し、野菜や果物や玄米のような全粒穀物 からの摂取をすすめている。
リード (N.W. Read) とティムス (J.M. Timms) による「トンネルの向こうに光は見えるか」という論文[15] では「食物繊維によって重症の便秘 が軽減する事は少ない」と著されている。
なお、肉食 が多いほど、また食物繊維の摂取が不足するほど、大腸癌 のリスクが増加するとされる要出典 。 また近年の研究では、食物繊維の摂取量と大腸癌発生リスクとの間には特に相関関係はないという研究結果もある要出典 。
2007年11月1日の世界がん研究基金とアメリカがん研究協会によって7000以上の研究から分析したがん予防の報告書[16] では、結腸や直腸のがんとの関連がありうるとしている。
肥満防止
SDFは胃で膨潤することで食塊を大きくし、粘性を上げ、胃内の滞留時間を延ばし満腹感を与え、IDFは食物の咀嚼回数を増加させ唾液や胃液の分泌を促し食塊を大きくすることで効果を現す。
コレステロール上昇抑止
SDFが効果的、SDFは食物コレステロールの吸収抑制、コレステロールの異化・代謝・排泄の促進、胆汁酸の回腸からの再吸収阻害による代謝・排泄の促進などがされる。
血糖値上昇抑制
SDFは体内で高い粘性を有するため、十二指腸や空腸の内容物の拡散速度と移動速度を遅くし、グルコースの吸収を緩慢にして血糖値の上昇を抑える。
大腸ガンの発生抑制
IDFは結腸や直腸で便容積を増大させ、排便を促進する。そして発ガン性物質の腸内での濃度を下げ、発ガン性物質が腸管と接触する時間を短くする。SDFは腸内発酵して短鎖脂肪酸や乳酸を生成する。発酵は腸内のpH を低く保ち腸内環境を改善し、腸内細菌による二次胆汁酸、アミノ酸などの発ガン性物質の産生を抑える。
ダイオキシン類の排出
ダイオキシン類 を吸着して排泄する効果もあるため、体内からの排出速度を2~4倍に高めることで、ダイオキシン類の健康に対する影響が防げると示唆されている[17] 。
編集 食物繊維を多く含む代表的な食品
全粒穀物 や豆 に多く含まれる。
^ 「日本人の食事摂取基準(2005年版)について」 (厚生労働省)
^ John Harvey Kellogg Autointoxication ,1918
^ James C. Whorton「菜食主義」『ケンブリッジ世界の食物史大百科事典〈4〉栄養と健康・現代の課題』 朝倉書店、2005年3月。ISBN 978-4-254-43534-4 。229~244頁。The Cambridge world history of food, 2000
^ 佐伯矩 『栄養之合理化』 愛知標準精米普及期成会、1930年。
^ S L Malhotra "Geographical distribution of gastrointestinal cancers in India with special reference to causation" Gut 8(4), 1967 August, pp361-372.
^ DENIS BURKITT – A LIFE OF SERVICE by William Reville, University College, Cork
^ Burkitt DP. "Related disease--related cause?" Lancet . 2(7632), 1969 Dec 6, pp1229-31. PMID 4187817
^ Burkitt DP. "Epidemiology of cancer of the colon and rectum" Cancer 28(1), 1971 Jul, pp3-13. PMID 5165022
^ BURKITT D.P., TROWELL H.C Refined Carbohydrate Foods and Disease: Some Implications of Dietary Fibre , 1975. ISBN 978-0-12-144750-2
^ Leonard Marquart et al. Whole Grains and Health: An Overview Journal of the American College of Nutrition, Vol. 19, No. 90003, 289S-290S (2000). PMID 10875599
^ 第6次改定日本人の栄養所要量について (厚生労働省)
^ 健常人の平均として経口摂取した一日必要量600mgのうち、腸管から吸収される分が約350mg/日、腸管から上皮細胞とともに脱落する分が約200mg/日で、尿として約150mg/日、便として約450mg/日が排泄される。食物繊維 以外にもポリフェノール も腸管からのカルシウム吸収を阻害する;「清水 誠」、「カルシウムの吸収・代謝と骨の健康」、『食と健康 食品の成分と機能』、放送大学 テキスト、p.157、2006年。
^ 「健康食品」の安全性・有効性情報 (独立行政法人 国立健康・栄養研究所 )
^ Report of a Joint WHO/FAO Expert Consultation Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases , 2003
^ Read NW, Timms JM, . "Constipation: is there light at the end of the tunnel?" Scand J Gastroenterol Suppl;129, 1987, pp88–96. PMID 2820050
^ World Cancer Research Fund and American Institute for Cancer Research Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer: A Global Perspective , The second expert report, 2007
^ 森田邦正、飛石和大「ダイオキシン類の排泄促進に関する研究」福岡県保健環境研究所年報 第28号 平成12年度(2000) 福岡県保健環境研究所、2001年12月。56頁。
^ 五訂増補 日本食品標準成分表 (文部科学省)
編集 参考文献